北風のお正月

a0071722_1433744.jpg 大晦日から続く寒波の影響で、牡丹雪が舞う正月・元旦です。我が唐津の妻の実家は古い木造の日本家屋。マンションと違ってすきま風が冷たく、少年時代の生活を思いだします。ひとつのこたつに身を寄せ合った日々。石油ストーブにはヤカンが載せられ、シュンシュンと湯気をたてていました。
 
 当時、我が家では人を招待し、ご馳走をふるまう経済的余裕はありませんでした。が、愛すべき家屋には北風だけは招き入れる余裕(隙間)がありました。へヘッ、貧乏ならではの温かい心の余裕です。セラミック外壁の現代の家には、ないものです。フム、これは絵本の原作ネタになりそうな話かも。今、書きながら、頭の中で電球のフィラメント(古っ!)が光りました。
 

師走。
旅に疲れた北風はどこかで休息を取りたいと思いました。
まだまだ目的地は遥か彼方。
見下ろすと大きな街。
高層マンションが立ち並んでいます。
裕福そうな家族が住んでいるのでしょう。
ガラス窓からはごちそうが並ぶ食卓が見えます。
しかし、玄関は重厚なアルミ防犯ドア。
そしてアルミサッシの窓にも
北風が入り込めそうな隙間はありません。
北風は何軒も訪ねましたが
迎えてくれる家はありません。
フラフラになりながら
やっとの思いで街はずれまで飛んできました。
目眩がします。
失速。
気を失いそうです。
落ちながら
もうダメかもしれないと思ったその瞬間。
トタン屋根の家が見えました。
壁板がめくれています。
貧しそうな家です。
木の窓枠も曲がって隙間が見えます。
助かったと北風は思いました。
北風は隙間からそのトタン屋根の家に入り込むことが出来ました。
その部屋には小さな古びた石油ストーブがあり、
かけられたヤカンがシューシューと音を立てています。
質素な食事を家族が囲んでいます。
貧しそうだけど楽しそうです。
赤ちゃんの笑い声が聞こえます。
これが最後の灯油になるかもしれないと、若い父親が心配顔で話しています。
北風は命を助けられました。
北風は暖められたら
自分の使命が果たせなくなることを知っていました。
春一番がやってくる前に目的地に向かわなければなりません。
それでも、
この家族ともう少し一緒にいたいと思いました。
やがて、休息を終えた北風は飛び立ち、
そして、大寒の時期。
父親が心配していたとうりに、灯油を買うことが出来なくなりました。
風邪をひいた赤ちゃんの熱は下がりません。
暖かい春はまだまだ先のことです。
お金のない若い夫婦は祈ることしかできません。
すると不思議なことに、
その年は春一番でもないのに、早々と暖かい南風が3日間吹き続けました。
あの北風が南風になって戻ってきたのです。
風はいつだって、隙間のある家が大好きなのです。

 雪が降り止み、新しい日が射してきました。庭に眼を凝らすと、クモの巣に雪が捕まっています。そして葉を落とした梅の枝先にもう小さな芽が沢山付いています。温かい希望。お腹がすいてきました。もうすぐ、イタリア人の神父が二人、食事にやってくるそうです。それまで少しの辛抱です。北風を一緒に連れてきてもいいですよ。隙間はたっぷりありますから。
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by hosokawatry | 2009-01-05 01:46 | やさしく歌って・自由日記


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