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あの蒼い夏に 〜チラシづくりの青春・1〜




               死神が嫉妬をするほど
               チラシづくりを愛した
               近藤秀樹くんに捧ぐ



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「長嶋だって、王だってヒットは3本に一本しか打てんのに。それを全打席ヒットにしようなんて、そりゃちょっとしんどいわな」
 野瀬企画課長は眉根をあげながら僕に言った。呼び出された僕は課長の机の前に立っていた。
「河村がつくったこのチラシはタイトルだって、メインのビジュアルだって悪いとは思えん。むしろ、他の先輩の作品より良〜く出来とる。コンセプトもしっかりしとる、と俺は思うよ」と課長は続けた。

 今週は仕事が立て込み、僕はわずかな仮眠と強力なモカの小ビンで生きていた。モカの主要成分はカフェインだ。課長の言葉に緊張しながらも「はぁ」と生半可な相槌を打つことしか出来なかった。脳は緊急を叫ぶが身体の芯が緩んで力が入らない。
 机にはB3サイズの新聞折り込みチラシが広げられていた。僕が先週苦心して作ったチラシだ。企画課長は赤ラッションペンですでに囲まれたテレビの部分を、愛用のパーカー万年筆の黒インクでその上からなぞった。そして座ったまま、下から僕の目を射抜くように見上げた。疲れた身体と萎えた心のまま、僕は死刑台に立たされていた。

「さっき恵屋の咲田店長から電話があったが、えらい怒っとったわ。お前、花村店の制作担当やからわかるやろ。えらいきつい店長さんやな、剣幕にはびっくりしたわ。けどな、このテレビほんまに安すぎるわ。9800円か。俺が二台目に欲しいくらいや」
 僕は冷房が効きにくい、夏のうんざりするくらいの室温の中で、一人だけ妙に縮み上がっていた。
「明日からの売り出しのこのテレビ、値段はどうして一桁とんだんや。原稿が間違っとったんか、それとも写植屋が打ち間違えたんか?」と、極力怒りを抑えながら課長は言った。
「はぁ、え〜、すぐに調べてみます」と僕は頼りない反応しか出来なかった。
 課長の小さい人参柄の少し緩んだネクタイを見つめた。僕のネクタイはポロ選手をのせた馬の絵柄だったが、人参を見ても元気が出なかった。つらそうにブルーな色をして僕の襟元からだらりと垂れていた。
「おう、急げ。原因をすぐに報告せぇ。1時間後に支店長と一緒に花村店に謝りにいくよってに、お前も早う準備しとけ」野瀬課長は3回小刻みに「とん、とん、とん」と、立てた中指で事務用スチール机を叩いた。
「どうしても、そのテレビが欲しいと言うお客には限定数分の5台は売ると言うてるし、困ったもんや。一台当たり3万の赤やから、15万の損か。値引きされるし、うちはチラシ代がパーの上に先方への信用は落とすし、もう最悪や」
 僕はうなだれながら、さらに縮んだ。目を合わすことすら出来なかった。
「いいか、クリエイティブの上で、手を抜けとはいわんけど、もう少し最終チェックに気合いを入れてくれ。チェックに時間も割いてくれ。間違えたら何にもならん。こんなん続けたら取引停止になる。いい出来の作品は1/3でOKや。間違いのないチラシをつくることが大切なんや。そっちの方は10割やで。ええか、ほんまに頼むわ」

 わかりましたと返答はしたものの、何が分かったのかよく理解できなかった。チラシやポスターに間違いがあってはいけないのは分かる。しかし、いつも本気で制作に取り組むことが何故いけないことなのかよく分からなかった。僕は全力で頑張れることが自分の誇りでもあったし、とりえでもあった。制作に関することではブレーキを踏みたくないと思っていたが、課長は『僕のある部分』にブレーキをかけることを強要している。
 頭の中を整理しようと試みたが、混乱が広がるだけで先には進まなかった。昨夜1時間の仮眠時間は僕の脳に限界を見せつけた。

「3割でいいんや、いいな!」
 自分の席に帰る僕の後ろ姿を課長の関西なまりが追いかけた。目標打率の監督指示は最初の3割3分3厘から少しの時間で3割に下がってしまった。

 夕方からの流舁きも始まった。閉じているはずの窓の隙間からも「おいさ、おいさ」と威勢の良いかけ声が聞こえてくる。老朽化した会社のビルを震わせ、熱気が路地を駆け抜ける。
 僕の会社の仕事は博多祇園山笠に負けないくらいに熱かった。当然僕の23才の夏も熱くなろうとしていたし、机のFMラジオからはイーグルスのホテルカリフォルニアのイントロが心臓の鼓動を刻んでいた。
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by hosokawatry | 2006-07-29 01:25 | ブログ小説・あの蒼い夏に

7月のアカテガニの爪は痛かった。

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 集中豪雨をもたらしたひどい梅雨もようやくあけました。待ちに待った太陽の季節だ!と、飛び上がって喜んだのはずぅ〜っと昔の話で、真夏は嫌いではないけど、今はもうそんなに嬉しくはありません。10代・20代はどうしてあんなに開放的な気持ちになれたのか、今思うと不思議です。


 サングラス越しの海の家・サンオイルの甘ったるいニオイ・砂の感触・渚を転がるビーチボール・濡れた指ではさむセブンスター。「来年こそみんな彼女を連れてこようぜ!」が毎年夏の合い言葉になっていた潮風の季節。お金はなかったけど妙に幸せだったような記憶が蘇ります。

 7月の第一日曜日、うちの近所のアスファルト道路を一匹のカニが横断中。高校生のカップルがそれをながめながら、少し立ち止まったもののそのまま通り過ぎました。助けてやろうと、手で甲羅をもったとたんグイと爪で挟まれてしまい、いい年して「いててて」と大声。10m先の老人車を押していたおばあさんがびっくりして振り向きました。

 車で用事を済ますこと15分。その後、車に乗せたまま市民図書館でカニの正体を調べ、海辺に帰すことに決定!しかし、その「アカテガニ」君は元気がなくなってきたので、急遽、海の手前の川に帰してやりました。川は水量が多く流れが速かったので、かなり心配です。
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by hosokawatry | 2006-07-27 00:49 | やさしく歌って・自由日記

とにかく今年の梅雨もよく雨が降ります。

 自然をこんなに凶暴な性格に変えてしまったのは人間です。梅雨の末期になると必ずと言っていいほどひどい集中豪雨にみまわれるようになりました。今年は最初九州、そして本州、先週からまた九州と梅雨前線や台風からの暖かい水蒸気の吹き込みの影響で、被害を受ける地域も変化・拡大。

 車の中で南九州の大雨洪水警報ニュースを聞きながら、延岡のお客さんのところへ出かけました。途中、これまで行ったことが無かったので、「天岩戸(あまのいわと)神社」にほんの少し寄り道。天照大御神(あまてらすおおみかみ)が身を隠した天岩戸(洞窟)を祭る神社です。

 目の前の空気を握りしめると水滴が滴り落ちそうな高湿度の中、さらに天安河原(あまのやすかわら)」に足をのばしました。岩屋に隠れてしまった天照御大神を迎え出そうと、神々が相談したのがこの河原だそうです。一般道から河原に歩いて降りていく訳ですが、目の前は大雨で濁流が大きな音を立てていて、足がすくむほどの迫力。

 身の危険を感じるほどだったので、河原の歩道を途中で引き返しました。たたきつけるスコールのような雨は、環境破壊を警告する神からの伝達手段なのかも。エアコンも必要最低限にしようと思いながら、天岩戸神社を後にしました。
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by hosokawatry | 2006-07-24 01:12 | やさしく歌って・自由日記

2006年博多祇園山笠「追い山」がくれた贈りもの。

 まだくっきりと空に月が残る薄明の時刻、7月15日午前4時過ぎ。僕は眠い目をこすりながら地下鉄の臨時列車に飛び乗りました。「追い山」がスタートするのが午前4時59分。それに合わせて私鉄や地下鉄の臨時ダイヤが特別に組まれるので、出かけるにはとても便利です。

 20代の頃、徹夜で浴びるほど酒を飲み、もうろうとしながら追い山を見たことはありましたが、「しらふ」で見るのはこれが初めてです。櫛田入りをする前のスタート地点での緊張感。太鼓の合図とともに動き出す「かき山」。薄闇を切り裂く「おいさ」のかけ声。

 30秒前後の櫛田入りを競った後は、30分・約5kmのコースをたくみにかき、勇壮に駆け抜けます。これは鍛えていないと無理です。かき手は誰にでも出来るものではありません。勢い水が宙を舞い、「おいさ」の声が路地をすすみます。山が僕の前を駆け抜けたとき、不意に鳥肌が立ちました。久しぶりに感情が揺さぶられた瞬間でした。

 博多祇園山笠は「心の喪失度」を計るのには最適です。僕の心がすべてを無くしてはいなかったことにホッとして家路に向かうことが出来ました。「追い山」ライブを経験したことが無い人は、ぜひ来年はご覧下さいね。

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by hosokawatry | 2006-07-15 13:45 | やさしく歌って・自由日記

七夕に中州を歩けば

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 仕事の打ち合わせ時間が変更になり、少し自由時間が取れたので飾り山でも見ておこうと中州経由で打ち合わせに出かけました。飾り山の前には観光客や地元の人が十数人。見物用のいすが用意してあるのでゆっくり鑑賞できます。

ふと、見渡すとそこにはあの「葦ペン画家」中村洋一さんが飾り山を描いていました。声をかけると「本(小説)、出した?」と聞かれたので、僕は「ブログで発表しようかな」と苦笑い。中村さんは心の和む「葦ペン画集」を出されていますし、昔ながらの博多の風景なんか描いたらピカイチです。僕も彼の画集を持っているし、いろいろな風を感じることが出来る彼の絵(絵の挿入文も)が大好きです。個展もよくされているので、機会があればぜひ絵から流れてくる爽やかな風に触れてください。おすすめです。

 僕は飾り山を見ながら、しっかりとした小説が書けるようにお祈りしました。七夕ですからね。これから15日早朝の追い山まで、この博多のまちはボルテージが高まっていきます。ことしは久しぶりにナマで追い山を見てみようかな・・・・・。
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by hosokawatry | 2006-07-09 19:59 | やさしく歌って・自由日記

とっておきの話は「想い出?重いで?」

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 今日は7月1日。今にも泣き出しそうな梅雨空。僕は額に汗を感じながら生まれて初めてのブログの文章を書いています。

 博多の7月といえばやっぱり博多祇園山笠ですね。僕が長い期間勤めていた会社が中洲川端の近くだったので、この時期になるとまわりが賑やかだったのを思い出します。会社には、やはり「山のぼせ」がいて、この時期になると「後は明日、お先に!」と締め込み姿に変身するものもいました。しかし、こういった人ほど段取りがよく、きちんと仕事をこなしていたようです。僕はいまだに段取りが未熟で、自分の能力にはもう目をふさぎたくなります。ねぇ、米岡さんそうでしょ。

今日の朝、新聞の中に「山笠ガイド」が折り込まれていたので、入社間もないころを思い出してしまいました。今から考えると、ばかばかしくも真剣で、夢のような毎日でした。「よ〜し、小説を書こう!」と朝食をとりながら決意しました。想い出をたぐり寄せながら書こうと思いますが、長い月日・時間が必要なことを考えると我が肩にとっては「重いで!」になりかねませんね。スタートを記念?して、モノクロームな自分の手巻き腕時計写真を載せました。パソコンの横で猫に「大丈夫かにゃ」と質問されて、うまく返事を返せなかった自分に腹を立てながらも、小説の題は「あの蒼い夏に」と決定!

 どこまで頑張れますことやら…夢は遠いかも。まあ、とにかく始めなきゃね。
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by hosokawatry | 2006-07-01 18:09 | やさしく歌って・自由日記