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ポーズをとる11月のキザな青サギ。

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 この夏から秋にかけて、小戸公園の海辺で3度ばかり青サギを見かけました。見かけたというより、わざわざウォーキングする僕の前に、相手の方からからよく現れるという感じです。僕の方をじ〜っと見つめ、なぜだか顔をかしげ(僕にはそう見えた)、その後シャキンと姿勢を正し、優雅さを誇示するように体のラインを引き締めるのです。

 デイパックからカメラを取り出す僕が慌てなくてもすむように、顔を能古島に向け、しばらくポーズをとってくれました。その距離5m。「こいつ、けっこうとっぽい顔してるくせに、自分では美人だと思っているんではないだろーか」などと思いながら、「ツヤぶってる青サギ」に向かってシャッターをパチり(カシャッ)。

 自意識過剰気味でなければモデルはつとまらないと思うけど、この青サギにはそういう雰囲気が漂っているのです。鳥のくせにどこか偉そうな感じもします。ゆりかもめのようにもっと素直になったらいいのに…。もっとファンも増えそうなのに。

 最近あまり使わなくなった言葉に「気障(キザ)」というのがあるけど、博多弁だったら「つや、つけと〜」ということでしょうか。国語辞典をひいてみれば、「服装・動作・言語が気取っていて、反発を感じさせる様子」と書いてありました。青サギ君は反発までは感じさせなかったけど、やっぱり僕にはキザに見えました。えっ、反発を感じなかったのならキザと言ってはいけない?   ん〜、日本語はやっぱり難しい。
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by hosokawatry | 2006-11-30 19:06 | やさしく歌って・自由日記

あの蒼い夏に 〜チラシづくりの青春・7〜



                   7


 笠木君はうわの空の国から帰還すると、僕のほうを向いて声のトーンを少し落とした。
「ノックするとトイレに鍵がかかっていたので、たぶんワタリさんはいつものように社員が使っていると思ったんだろ〜ね。『オラオラ、何やっとるの。早く出んかい』と言って、ドアノブをがちゃがちゃ引っ張ったんだって。それに、ばばばばーんと扉を叩いたらしいんよ」
「え〜っ、そりゃ、まずいよ」と僕は言った。
 2階のトイレが会社内では鍵の状態が一番安全だった。昼休みに「大」を放つことの多い若手男子社員は、その時間帯にこのトイレをよく利用していた。ワタリ係長はそれを知っていた。

「僕らがトイレに入っていたのなら、いいけど。いや、ほんとは良くはないけどね。何といってもトイレにの中でしゃがんでいたのは得意先の偉いさんだもんね。」と笠木君は言いながら、コーヒーに2杯グラニュー糖を入れて掻き混ぜた。
「得意先の人じゃなく、女性社員が入っていても大変だよ、そんなの」と僕は言った。
「相当激しくドアを叩いたけど、反応がないので、ワタリさんは諦めて鍵がぐらぐらしている3階のトイレに行ったって」
 笠木君はホイップクリームを2杯コーヒーに浮かべた後、舌の先でクリームをすくって舐めた。
「3階に上がる前に、『コラッ、お前が誰か分かっとるんや。えらい長いやんけ〜。ええ根性しとるの〜、笠木ちゃん』と僕の名前を呼んで、さらに2〜3回ドアノブをがちゃがちゃさせたという話なんよ」

言葉をなくしている僕に笠木君はさらに声をひそめて言った。
「しばらくしたら、じわ〜っとドアが開いて恵屋の販促部長がきょろきょろしながら出てきたらしいんよ。顔中汗ばんでいたんじゃないかって、藤木女史が言ってた。ハンカチをギュッと握りしめていたんだって」
 僕はタバコの火を消してコーヒーを一口飲んだ。
「冷や汗もんだね」と僕は言った。
「うん、取引に影響しなけりゃいいけどね」と笠木君はうなずいた。
「しかし、藤木さんも凄いね。それを全部見てたの?」
「商談室の灰皿と湯のみを新しいのに変えようと2階に上がったときに、全てを見たんだって。販促部長が出てきたときには、心臓が止まりそうだったって言ってた。それも商談室のドアの隙間から見えたらしいんよ。息を止めながらね」
「へ〜ぇ、なかなかやるね。007のロシアより愛をこめての女スパイ顔負けだね。しかし、良く教えてくれたね、笠木君に」
「なぜか僕には良くしゃべってくれるんよ」と言って、笠木君はコーヒーをグイと飲み干し、情報に疎い僕に向かって胸を張った。
「どういう関係?」
「はは、何にもないさ」と笠木君はすまし顔で答えた。
「しかし、ワタリさんも相当にストレス溜まってたんだろうね。新店オープンチラシで睡眠不足だったろうしイライラも極致だったのかな。普通は絶対にそこまではしないと思うけど」
「大丈夫かな?ワタリさんは。まさか狂ってしまったんじゃないだろうね。時々、人が変わったように見える時があるもんね。知らない人がみたら、怖いかも。河村も気をつけたほうがいいよ。結構頑張るタイプだから」
「ああ、狂わないようには気をつけるよ」と僕は答えた。「しかし、トイレの中に入ってるの、どうして笠木君だと思ったんだろうね?」

「その時間、僕がよく使っているんよ。でも、使ってるのは僕だけじゃないのに、何故僕だと思ったんだろう?」と笠木君も首をかしげた。
 
 人間的な優しい部分をたくさん持ったワタリ係長の輪郭が頭の中で大きく揺れた。きわめて真面目な性格と突然顔をのぞかせるやんちゃな性格。しかし得意先の販促部長のトイレタイムに、緊張感をプレゼントしたのだけはまずかった。
 心配になるほど面白い話が多い会社だ。竹田さんの独り言も多くなってきたとまわりの人は言うし、ワタリ係長もきっと苦労が多いんだろうなと思った瞬間、見覚えのある顔が現れ、笠木君の肩を後ろからポンと叩いた。
「それにしても笠木の声はいつも大きいなあ」と、ワタリ係長は僕たちに声をかけて、出口に向かった。笠木君は顔色をなくし固まってしまった。すこし蒼ざめている。
「そういうのを蒼い青春って言うんだ」と僕も笠木君の肩をそっと叩いた。
 クリスチナ・リンドバークがこちらにチラッと視線をよこした。そういえば、顔立ちもどこか日本人離れしている。喫茶店内のスペースインベーダーゲームの攻撃音はいつまでも鳴り止むことがなかった。


                    *


「じゃあ、永野案を採用して、社内校正を強化するためにバイトかパートを採用することにする。明日、支店長と課長に強く要望してみる。野瀬課長も文字チェックについては、人手が要るだろうなと言ってたし」とワタリ係長は静かに、しかしきっぱりとした態度で言った。

 僕はテレビの値段間違いの原因追及が、写植屋迄及ばなかったことにほっとした。

「高額品の値段だけは間違えちゃだめだって、課長がいつも言ってるじゃないか。原因は何なんだよ?」とデザイナーの永野さんからの僕への追及だけはしつこかった。しかしワタリ係長は「これから気をつけるように」と僕にしっかりと注意を与え、永野さんの声を制して、早めにピリオドを打ってくれた。そんな気遣いが嬉しかった。写植屋をかばう僕をガードしてくれたのだ。

 僕は今回、ワタリ係長に間違いの原因を全てきちんと報告していた。その直後に来社した写植屋の社長が汗を拭きながら、ワタリ係長に頭を下げていたのを僕は見ていた。結局、ミスの大きな原因がその写植屋の「内部の誰か」にあることを知ったのは、会社の中では僕以外ではワタリ係長だけとなる。野瀬制作課長への報告は細かいこと抜きの「写植屋のミス」で通した。しかし、チェックで見逃した僕の責任が一番大きいし、それは当然のことだった。
 秘密の共有を許してくれる上司が、僕の心の中で不思議で温かい存在感を示すようになった。しかし僕が知っていることで、どうしても話せなかったことがひとつあった。信頼できる上司であっても、どうしても…それだけは喋ることができなかった。

 恵屋は売り出しのその日、チラシの値段間違いに、何事もなかったように淡々と対応した。せっかく並んだお客様に悪いからと、結局その人気テレビを9,800円で売ってしまった。安売りされるとブランドイメージ維持に困るメーカーから待ったがかかるので、静かに、すばやく、制限台数表示の5台をきちっとさばいた。テレビ目当てで列を作って並んでいた残りの客には、頭を下げて帰ってもらった。僕と営業の湯浦さんは売り場で待機していたが、6人目以降に暴れる客もなく、ほっと胸を撫で下ろした。
「河村には、えらい目に遭わされるわ。しっかりしてくれな。お前ももう2年目なんやから。今度やったら減給もんやな」と湯浦さんは僕の頭をポンと叩いた。叩く手には妙に力がこもっていた。営業担当者最終チェックで自分が見逃したことには、一度も触れようとしなかった。自分のミスには寛容な人間だ。これからは「スイカとメロンはどっちが大きいとや?」と言う代わりに「テレビとラジカセはどっちが高いとや?」と、面白くもないことを僕に言うかもしれない。

 まったく、梅雨のミミズだ。湿っている。

 恵屋のしっかりした危機管理能力のおかげで、問題は大きくならないだろうと思った。しかし情報を仕入れた地元新聞社が、翌朝の社会面で地域ニュースとしてそのことを取り上げた。「5人が笑顔。チラシ間違いへ対応、恵屋」と大きな見出しで。「誰か新聞社に情報を回したんやろ。競合店のスマイル堂やな、ほんまに余計なことやで」と野瀬課長は眉をひそめた。
 記事の内容は意外に好意的な表現で、恵屋もうちの会社もそれ以上に肝を冷やすことはなかった。今回は大きな問題への発展はなさそうだが、決まり事だからと、恵屋の本部から花村店の店長を通じて、始末書提出の依頼が届いた。今度の間違いの件はうちの会社の責任であることを、書類の上で明確にさせられた。それもワタリ係長が何事もなかったように済ませてくれた。僕は心の中でその頼もしさと心の温かさに頭を下げた。

 最近は二人目の子供も出来たせいか、ワタリ係長は以前とは違った表情を見せるようになっていた。昔からワタリ係長を知る支店長や野瀬課長からは、やっと大人になってくれたという声も聞こえる。以前のワタリ係長には動揺や興奮がよく訪れ、そしてすぐに落ちこんだりと、精神の乱降下が激しかった。本来、真面目な人格はそのじっとしていない感情を押さえ込もうと、いつも汗をかきっぱなしのように思えた。きっと賑やか過ぎる自分の感情を持て余していたのだ。
 表面に現れる二面性を非難する先輩もいた。しかしそんな非難は青すぎる。人間の感情は一面に収まる程、簡単なものじゃない。人間は浮かれすぎた後は、誰だって静かに反省しなけりゃいけないように出来ている。多面性を操らなくては生きてはいけない。しかし信念だけはひとつにしたほうがいい。入社2年目の僕でもそれくらいは分かっているつもりだ。

 僕は、年下の営業担当に「ア〜カ、ア〜カ、真っ赤っか」と歌い続け、トイレのノブが壊れるくらいがちゃがちゃと回し続けるワタリ係長に、奇妙な親近感さえおぼえていた。
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by hosokawatry | 2006-11-25 10:45 | ブログ小説・あの蒼い夏に

唐人町商店街の柿は美味しかった

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 僕が住んでいる姪浜も町の雰囲気がかなり変わってきました。20年前は駅の南側にすぐバッティングセンターとゴルフの打ちっぱなしがあるだけで、あとは田畑だけの「のんびり」した町でした。今は駅周辺の開発もかなり進んで、こぎれいになってきたものの、何か落ち着かない感じがします。

 以前は僕が住んでる駅の北側が「オモテ」だったのに、最近は「オモテ」が南側に移ってしまいました。ついに「裏」に住む住人になってしまったのです。別にそんなこと気にする必要はないと思うのだけれど、なぜだか妙に悔しい今日この頃。

 そんな裏側のうちのマンションの近くでは、太陽の日をしっかり浴びて、柿が美味しそうに実っています。小鳥たちがついばんだ柿の実が道に落ちていたり。じつにいい雰囲気です。新しいマンションやゴージャスなパチンコ店の建物が冷たく並ぶ「オモテ」の南側にはない温かさがあるのです。「ど〜だ、いいだろ〜」と南を向いてしつこく負け惜しみ。

 先日、10数年ぶりに、中央区の唐人町商店街を歩きました。昔、独身時代に住んでいたアパートがその商店街の近くだったので、当時は良く利用させてもらったものです。とても懐かしくて、つい果物屋さんで「柿一盛」買ってしまいました。でかい柿が7個も入っていたのに「200円でいいよ!」と、嬉しいお兄さんの気合いの一声。買って帰って食べたら凄く美味しかったので大満足。これからも頑張ってね、唐人町商店街!

 そういえば、唐人町商店街も唐人町駅の北側。いいねぇ、北側は。また、柿を買いにいこうかな。
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by hosokawatry | 2006-11-17 02:11 | やさしく歌って・自由日記

あの蒼い夏に 〜チラシづくりの青春・6〜

                   
                      6


 笠木君は紙ナフキンで口を拭きながら、コーヒー飲む?と僕に目で訊ねた。そのまま視線を近くのウェイトレスに移し、Vサインでコーヒーを2杯注文した。そして、カウンターに戻って行くウェイトレスの方を振り返りながら「あの娘、胸大っきいなぁ」と言って「クリスチナ・リンドバークみたいやん」と呟いた。週刊プレイボーイ読者の笠木君は、この店で初めて見るウェィトレスの女の子に目を奪われた。
「日本の女の子も結構やるもんだね」と週刊誌愛読者は言った。
 僕も嫌いではなかったが、スウェーデンの若い肉体派女優に笠木君ほどの関心を寄せることはなかった。

                    *

 笠木君を語る時には、絶対にこのクリスチナが欠かせない。笠木君や僕が入社した年の冬、ということは数ヶ月前の話だった。博多の町も久しぶりの大寒波に見舞われ、その日の日中最高気温は0度をかろうじて越えた。台風並の強風に電線は鳴りやまず、飛び交う雪は視界を奪う。朝の凍り付いた路面は鈍く光り、街には緊張感が漂った。人は滑り、車は歩いて使命を忘れ、多くの経済活動が熱帯雨林のナマケモノのようにスピード感をなくした。日本を南下したシベリア寒気団は九州まですっぽりと包み込み、寒気は明朝まで居座るとニュースは告げていた。

 野瀬制作課長は事務の女性を午後3時に帰宅させた。暖房がほとんど効かなくなっていた会社で、僕は写真の紙焼きをはさみで切り抜いていたが、手が冷たくて効率が上がらなかった。指先が凍りそうだった。
 横殴りの雪は衰えることがなかった。午後4時をまわった頃、野瀬制作課長は「ほなもう、みんな帰ってや、こんな天気やし。仕事は寮に持って帰ってもかまへんから」と男たちにも言った。残りの仕事は明日にまわしてくれと言わないところがすごい。
 笠木君は「明日の朝も出勤が大変そうだし、今日は寮に泊まったら?グラスロッドのいい釣り竿が手に入ったんよ。見せてあげるよ?」と中呉服町にある独身寮に僕を誘った。

 独身寮は会社から歩いて5分、走ると2分の距離にあった。福岡都心部近くに立地する会社で、これほど通勤時間に恵まれた寮も珍しい。5分で歯磨き・洗顔・着替えを済ませる自信があれば、8時50分に目覚めてもほとんど遅刻せずに済む。退社時間が深夜になることが多い若い制作担当者には、これ以上嬉しいことはなかった。それでなくても若者の朝は限りなく眠い。朝、布団をはねのける前の1分間は人生の全ての時間を凌駕する。あのとろけるような甘美な瞬間、ウェットドリームだってかないっこない。

 独身寮は木造の古い建物なので廊下はギシギシと悲鳴を上げる。僕は初めて独身寮に上がったとき「君が噂に聞く『老化』だね」と廊下に向かって呟いたことを思い出す。乱れた銀髪の寮母が、料理の手を止めずに背中を見せたまま「バカをお言いでないよ」と静かに言った。この寮は空気にも耳がある。
 ティッシュのガサゴソという音が薄い壁の向こうに聞こえようが、嫌いなおかずが頻発する食事が続こうが、それでもみんなは「走れば2分の距離」の魅力にひれ伏した。

 今は空き部屋だが、その部屋では以前に夜な夜な坊さんのお化けが出没したという。そんな体験談を耳にするやいなや、 僕は入寮直後にもかかわらず寮を飛び出した。部屋代は格安の3,000円だったが仕方ない。後悔はしていない。「俺は金縛りにおうたばい」「僕はその部屋で坊さんに腰を押さえつけられたよ」「男の腰を押さえつけるとか、変な坊主がおるったいね?」「やな坊主だね。おかまかい?」「そういうたら、手つきが妙に優しかったばい」と、真剣に話す先輩たちの声に僕は震え、すぐに中央区地行のアパートを探し出したのだった。笠木君や独身の先輩たちの多くは、そんな鳥肌ものの独身寮に今も住んでいる。

 会社を出た僕と笠木君は積もった雪を慎重に踏み締めながら独身寮に向かった。幽霊の出ない笠木君の部屋だったらいいという条件で泊まることにしたのだ。雪の下の道路は凍結している。途中、大博通りの交差点の手前にあるタバコ屋に寄った。二人で煙草を買った後、笠木君はちらりと店内にある週刊誌に目をやった。表紙の見出しが笠木君を誘惑している。
「先、行っといてくれない?買うものがあるから」と笠木君は言った。

 僕はゆっくりと歩き出し、凍り付いた青信号の交差点を渡った。渡りきったところで青信号がカチカチと点滅を始めた。イヤな予感がした。振り返ると笠木君が何かを大切に胸に抱き、急ぎ足になっている。笠木君は黄色信号に変わったところで、横断歩道を渡り始めた。普段ならさっと渡れば問題はない交差点も、その日はスケートリンク状態で危険だった。暖かい地方で育った人間は、滑る地面になれていない。
 焦ってバランスを壊した笠木君はツルリと転倒してしまった。「わぁっ」と大きな声を上げた笠木君は足をスリップさせて、右脚を45度に上げたまま倒れ込み、腹を上に向けた状態でバンザイをしながら滑った。巨人の柴田選手のような見事なスライディングだった。雑誌らしいものが空を飛ぶ。交差点の中央部から滑り込んで道路際までたどり着いた笠木君に、僕はさっと両手を水平に広げた。

「セーフ」

 雑誌は信号待ちしていた赤色のファミリアの前にばさっと落ちて、グラビア写真が露出した。いつも笠木君が愛読している週刊誌のようだ。北欧娘の見事な肢体の全面写真が見える。クリスチナ・リンドバークだった。
ファミリアの赤いドアがさっと開き、若い女性がその週刊誌を拾った。「大丈夫?」と立ち上がったばかりの笠木君に手渡した。笠木君は頭をかきながら、開いてる週刊誌のページを慌てて閉じた。女性は「ククッ」と優しく笑って、車のクラクションが鳴る中、自分の車の赤いドアを閉めた。

「ごめん、やっぱりアウトだ」と僕は笠木君に言った。
 
                    *

「変なことって?」と、僕は訊ねた。
「この前、恵屋本部の販促部長が来ていたよね、うちに」
「ああ、先週だろ。ビシッと黒ずくめでね」
「来年度の販促の予算と方針を立てる前らしいんよね。そのための業者打ち合わせということで来たんだって」と言って笠木君はマッチを擦ってタバコに火をつけた。甘い匂いのするチェリーの煙が広がった。僕もセブンスターにオイルライターをカチンと鳴らして火をつけた。笠木君は自分の丸い顔が煙に巻かれると、左手でうるさそうに煙を左右に押しやった。
「支店長だけが対応したので、販促部長が来てるという情報はワタリさんまで伝わっていなかったんよ」
「ふ〜ん」
「販促部長は昼休みに出された出前の寿司を食べた後、2階のトイレに行ったんよ。ほら、2階のトイレはお客さん用で他より綺麗だし、落ち着くし。会社の女性はみんなこっそりそこを使っているの、知ってるよね?」
「知ってるけど、出前の寿司は誰の情報?藤木女史かい?」
「そう、一人前2、500円するんだって」と笠木君はそう言って羨ましそうな顔をした。僕たちの昼食代の攻防ラインはいつも700円台で、それが精一杯だった。もちろんコーヒー込みの価格だ。
「その2階のトイレだけど、販促部長が入っているときに、ちょうどワタリさんが昼飯から帰ってきたんよ。慌てて2階のトイレに直行したっていうから、腹の調子でも悪かったのかもね」

 お待たせいたしましたと、クリスチナ・リンドバークはブレンドコーヒーを置き、胸を揺すりながらカウンターに帰っていった。正確に5秒間、笠木君の身体から魂は離れていた。
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by hosokawatry | 2006-11-11 15:05 | ブログ小説・あの蒼い夏に

「えんや、えんや」と、11月は唐津くんちでスタート

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 昭和55年、国の重要無形民俗文化財に指定された「唐津くんちの曳山行事」。11月2日は提灯などのあかりに浮かび上がり、少し幻想的な感じもする宵やま。3日、4日は熱気と美しい色彩に包まれる昼の曳山が楽しめます。博多祇園山笠と違って、女の子も山を曳いているのがほほえましいところですね。唐津くんちではお尻は出さないし、それに夏祭りと違って水しぶきも飛んできません。

 各町毎に違う曳山衣装がほんとうに美しく、「けっこう優雅だなあ」と思って観ているのは僕だけではないと思います、きっと。今年はしっかり曳山を写真に収めようと頑張ってみました。結果、デジカメで全ての曳山が撮れたので大満足です。くんち見物22回目にして、初めての快挙!

 アメリカ人(たぶん)の女性観光客が写真を撮ろうとしていたら、法被を着たくんち関係者の人がさっと出てきて、「私が写してあげます」と曳山の前にアメリカ人を立たせて、シャッターを押してあげていました。その対応がとてもスマートでかっこ良かったですね。その女性のサンキューといいながら見せた笑顔が秋晴れの下で輝きました。とてもいい光景だったので、僕もつられてつい笑顔に。
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by hosokawatry | 2006-11-09 00:26 | やさしく歌って・自由日記

西日本新聞掲載のいい話

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 一国の首相を務めた人でも、いじめの元凶となるような言葉を無意識に使うことがある。明治の宰相、大隈重信が日露戦争の後、東京で小学生を相手にお話をした。「日本がロシアに勝ったのは大和魂のおかげである」…この「大和魂」が後で問題になった。

 話を聞いた児童の一人に米国男性と日本女性の間に生まれた少年がいた。容貌が一般の日本人とは異なった。同級生は少年を「大和魂半分」とあだ名をつけいじめた。悔しくて少年は米国の父親に知らせ、父親は大隈に手紙を書く。いじめの事実を初めて知った大隈は、すばやく手を打ち、それ以上のいじめから少年を守った。

 大隈が「すばやく打った手」とは何だったのか。「大和魂」の犠牲者、平野少年を私邸に招いたことだ。同道した校長先生より先に少年の手を握り、「こちらが悪かった」と詫び、「困ったことや悲しいことがあったら私のところにすぐおいでなさい」と、少年の「守護神」になることを約束した。この励ましが少年を育てた。 —以上西日本新聞10月29日(日)掲載文抜粋—

 必修科目の授業をしなかった高校の校長の「頑張っている先生方の勇み足」と仲間をかばう発言や、校内のいじめ発覚に「初めて知った」という顔をして謝罪の頭を下げる校長。僕らが思うより教育現場は大変なんだろうけど、やっぱり変だ。いいはずがない。

 会社、学校、家庭と、どこの現場でも「大隈重信の勇気ある心」を見習う必要があるのでは…と、自分も深く反省。ちなみに上記の平野少年の娘さんがシャンソン歌手であり、料理で有名な平野レミさんだということです。
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by hosokawatry | 2006-11-02 14:58 | やさしく歌って・自由日記